現行の雇用規制を知るVol.1 労働時間と時間外労働賃金(残業代)の原則はこうなっている

■裁量労働制とホワイトカラーエグゼンプション
安部首相の提唱する、いわゆる「国家戦略特区」(略して“特区“)で、導入が検討されたものの、各方面からの圧力で、とりあえず現時点では見送りとされそうな雰囲気なのが、「ホワイトカラーエグゼンプション」。

これは、いわゆる「ホワイトカラー」と呼ばれる一定の職種や地位の労働者に、労働時間規制を「免除=エグゼンプション」するというもので、現在日本にこの制度はありません。
日本の労働基準法には、「管理監督者の適用除外」という制度は存在するのですが(労基法41条2号)、似て非なるものと考えてください。

これに対して、裁量労働制は、画一的な時間管理に馴染まない一定の専門的職種や、経営に直接かかわる立場の労働者に対し、実際に何時間働いたかを問題とせず、1日の労働時間をあらかじめ定めた時間(労使協定で時間を定めます)、仕事をしたとみなしてしまうもので、こちらは、現在の労働基準法でも、すでに採用している制度です(労基法第38条の3、第38条の4)。

今回の雇用規制緩和の中で、厚生労働省はこの「裁量労働制」をもっと拡大し、手続きも簡素化して、企業が使いやすいようにする意向をすでに固め、2015年の通常国会に、労働基準法の改正法案を提出すべく、動き出しているというのです。

ホワイトカラーエグゼンプションは、労働時間規制を定めた法律の適用を受けませんが、裁量労働制は裁量といっても、労働時間をみなすというだけで、労働時間規制の適用は受けるという点で、両者は大きく異なります。

まず今回は、現在の労働時間の規制がいったいどうなっているのか、について基本中の基本を説明してみたいと思います。

■そもそも労働法の時間規制とは
仕事をしていると「残業」という言葉は、当たり前のように使われるし、「昨日は仕事が終わらず、結局夜中までかかってしまった」などという会話も、よく耳にします。
しかし、実際は、会社は労働者を何時間働かせてもいいというわけではありません。それが現行労働法の原則であり、出発点ということをまず押さえてください。法律上の原則は「一日に8時間、さらに一週間に40時間を超えて働かせてはならない」(労働基準法32条)ということなのです。(これを法定労働時間といいます)。
たとえば、毎日7時間勤務で月曜から土曜までというのも違法(週42時間になってしまう)ですし、月曜から木曜まで9時間働いて、金土日と休むというのも違法(週は36時間だけど、1日の労働時間が8時間を超えてます)。

「いくらなんでもそれじゃ仕事は片付かない、商売成り立たない」という声が聞こえてきそうですね。そこで、法が用意したのが、いわゆる36協定による例外。
会社が、労働組合それが無い場合には労働者代表と労使協定を締結し、これを行政官庁(事業所を管轄する労働基準監督署)に届け出た場合には、例外的に法定労働時間を超えて労働させることが可能になります(労基法36条1項)。

ただし、この36協定で決められる、時間外労働の時間にも厚生労働省が定めた上限がありますのでご注意を(労基法36条2項)。
もし、あなたの会社が36協定を締結しないで、労働者に残業を行わせているようであれば、それは違法ということ、労働基準監督署の調査などが行われた際には、お叱りを受けることになり、場合によっては罰則が適用される場合もあります(労基法119条1項)。

■残業代(時間外賃金)の問題
さて、めでたく36協定の締結がなされ、労基署への届け出をしてから、従業員が行われたとしても、それは残業そのものが違法にはならないというだけ。当然ながら、超過した時間については、残業代(時間外賃金)の支払いが必要になるということを、よもや忘れてはなりません。近年、残業代請求が少々話題となっていることは、ご存知のとおりです。

しかも、会社は、以下のように割増し賃金を支払わねばなりません。

①法定労働時間(1日について8時間、1週について40時間)を超えた部分のすべてについて、通常の25%以上の割増

②法定休日に労働させた場合に、通常の35%以上の割増

③月60時間を超えた場合、超えた部分につき50%以上の割増

④深夜労働(22時〜5時)に及んだ場合には、25%以上の深夜割増加算

(労働基準法37条、労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)

残業代計算の前提となる、残業時間の算出方法はここでチェックしてください→

なお、たとえば、休日にさらに時間外労働が行われたような場合ても、①②③は重複して加算されることはありません。しかし④だけは、あらゆるケースに加算されますから、たとえば法定休日の深夜労働などがあれば、60%(35%+25%)以上の割増しが必要ということになるのです。
ただし、③については一定の中小企業には適用が猶予されており(労基法138条)、また代替休暇の制度も一応認められています(労基法37条3項)。

■労働時間の管理と残業代の計算
労働者としては、一定の賃金で際限なく働かされたのではたまりませんから、現行の労働法では、以上のようにさまざま保護が図られているわけです。

そうはいっても、他方で会社側から見れば、時間外労働の割増賃金の負担はなかなか大変ですね。さらに、すでにお気づきのことと思いますが、法規にあわせて時間外賃金を毎月正確に算出する作業、これまた非常にややこしい。まるで、パズルかクイズのようです。
そのうえ、そもそも、割増賃金計算の基礎とすべき基本時給がいくらなのかの計算も、じつはやっかいな問題を含んでいたりもするのです。

そこで、勤務形態によっては大きな誤差は生じないと考えて、必ずしも法規どおりによらず、簡便な方法をとっている会社も多いのが現実で、中には、残業代込みでいくらとか、どんぶり勘定的な計算が行われる会社もあるようです。
ただし、いざとなって法令に準拠して計算してみると、かなりの額の食い違いが生じてしまったということも珍しくありません。経営者の方はご注意を。疑問点や不安がある場合は、早めに弁護士等に相談して解消しておいてください。(とくに、残業代込みでの支払いは、残業代と認められないことがありますから、弁護士等に相談のうえ、支払いの方法などをよく検討してください)

■労働時間規制を受けない場合
現行の労働法で、まったく労働時間規制の適用を受けないのは、まずは経営者などの会社役員、それに加えて、前に触れた「管理監督者」(労基法41条2号)のみです。
もっとも、管理監督者はというのは、いわゆる管理職ですが、会社が就業規則などで、勝手に管理職と定めても、法律上はなかなか認められものではありません。

そこで、もう少し広く、時間管理に馴染まない職種について適用除外を認めてもいいのではないかというのが、最初にお伝えした「ホワイトカラーエグゼンプション」導入の議論でした。
なお、裁量労働制とかフレックスタイム制など、現行法上存在する他の制度は、それを利用したからといって、労働時間規制の適用がなくなる訳ではありません。これには、十分注意のほどを。これらの諸制度は、あくまで労働時間管理について例外的な方法を認めたにすぎないことを再確認しておきましょう。
次回は、労働時間管理に関する問題と、裁量労働制の説明を掲載する予定です。

残業時間の算出についての注意はここから→

裁量労働制の話はここから→

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