売掛金回収、小額だからといってあきらめてたまるか!

■悩ましい少額の債権回収

比較的多い相談で、「う〜ん悩ましい・・」と言いたくなるのが、小額の債権回収。弁護士に委任されても、さすがに無料では仕事はできず、訴訟まで起こしたりすると、費用対効果の点で割に合わなくなってしまうのです。

しかも訴訟に勝っても任意に支払いがなければ、強制執行の手続までやらねばなりません。相手も、そのへんの事情がわかっていたりするので、あえて小額の債務を無視するという悪質なケースも・・・

「もう金額の問題じゃない、許せないからやってください」ということもあるかもしれません。しかし、民事裁判は相手に懲罰を与える手続じゃないので、採算度外視でやって気持ちが晴れるかといえば、特別な類型の訴訟を除いては、なかなかそうはいかない場合が多いのです。

 

■そんなときに使える2つの手続き

とはいえ、悪質な輩をそのまま放置したくはないし、少額といえども大切なお金というのもまた事実。どうしたらよいでしょうか。

そんなときに、簡易裁判所を通じて、弁護士に委任しなくても自分でも比較的簡単にできる2つの手続きがあります。①支払督促と②少額訴訟です。

 

①支払督促

読んで字のごとくで、裁判所から支払いの督促を出してもらう手続きです。

相手がそのまま異議を出さなければ、勝訴判決と同じ効果をもつので、強制執行も可能です。証拠も添付不要で、簡単に利用できますが、相手から異議が出てしまうと訴訟、それも通常訴訟に移行してしまいます。

少額訴訟と異なり、請求額に上限はありません。

 

②少額訴訟

弁護士を使わないで提訴することを前提とした簡易な訴訟(請求金額は60万円まで)。原則として1回で結審し、すぐに判決が出ます。(ただし、被告の申出等により通常訴訟に移行することはあるのでそこは注意。また和解の場合には2回目の期日が指定されることもあります)。

簡易裁判所の受付で、親切に説明してくれますし、手間と費用も通常訴訟に比べてかからないのが魅力。勝訴した後の強制執行についても、特別に簡易裁判所で「少額訴訟債権執行」手続が可能です。

ただし、1回で結審してしまうということは、調べられる証拠には限りがあるし、中途半端な主張をして、相手から効果的な反論が出されると、請求が認められずに終わるリスクが存在することは知っておかねばなりません。

しかも、判決に不服があるときには、1回だけ異議は出せますが、控訴はできない仕組みです。ですので、あまり複雑な請求には向きませんし、ある程度は確実な見込みがないと危険があるのも事実でしょう。

 

■どんなとき、どちらの手続きを使うか

そもそも、相手が支払いをしないのはなぜ?

細かい理由はいろいろあるかもしれませんが、非常に大雑把に類型化すれば、①お金がない、②支払いにルーズ、③請求に納得しておらず反論がある、でしょう。このうちどれであれば、どの手続と簡単に決めつける訳には行きませんが、少なくとも③の場合には、相手は異議を出すはずですから(異議には理由すら不要です)、支払督促をやっても,訴訟に移行して二度手間になるだけです。

なでは少額訴訟ならどうか? 予想される相手の反論にあまり理由がない、あるいは、反論が今回の請求とは無関係というような場合には少額訴訟が便利です。しかし、話が込み入ってくるなと感じられるなら、最初から通常訴訟にした方が安全ではあります。

では①②なら、支払い督促でもよいでしょうか?

考え方はいろいろあると思いますが、私はそれでも金額が枠内なら、少々準備が面倒でも、二度手間の危険がなく、少額訴訟債権執行も可能な少額訴訟を使った方がよいと考えます。

相手が対抗心を完全に喪失していることが確実で、強制執行をするためだけに行うのであれば、支払い督促を選ぶのも一案ですが、少額訴訟でも相手が出てこなければ、それだけで勝訴でき、少額訴訟債権執行が可能になりますし、相手に対するプレッシャーも、普通は訴訟のほうが大きいはずです。

また、支払い督促は相手の住所地の裁判所でしか手続ができません。もしそれで異議が出されれば、その裁判所で通常訴訟に移行してしまうというデメリットもあります。

 

■とはいえ、弁護士に相談だけはしたほうがよい

いずれにせよ。手続は自分で行うとしても、どの手続を使ったらよいか、書面はどうやって作ればよいか、どんな証拠資料が必要かなどについては、弁護士に相談するのをお勧めします。

これは、あまりお伝えしたくない話ではありますが、委任契約を締結して弁護士に実際に動いてもらうと、それなりの料金がかかるのですが、法律相談ベースなら、じつは何度か相談しても弁護士費用はそれほど多額にはならないのです。ただし、その場合には、自らの責任とリスクで手続を進めなければならないことは覚悟してくださいね。

スペースの都合で今回はここまでですが、弁護士に依頼してまで本格的に争うような話ではないが、放置しておくことはできないというケースもあるでしょう。今後も自分でやる訴訟については、情報提供していきたいと思います。

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