■違憲判決が出る可能性はかなり高い
現在、非嫡出子(婚外子)の相続分を嫡出子の2分の1と定めた民法の規定(民法第900条4号)が憲法14条の平等原則に違反するのではないか、が最高裁で争われて話題になっていることは、新聞やテレビやネットニュースなどで、すでにご存じでしょう。
7月10日には弁論(法廷でお互いに主張を行うこと)が開かれましたが、最高裁では原審の判断を変更しないときには、弁論を開かないのが通常です。「ということは・・・弁論が開かれた今回は・・・」と、違憲の判断が出るのではと注目されているわけです。
この事件では、当事者となっているAさんは、実際には普通の親子と変わらず生活してきて、父親を看病し、看とったということで、他に嫡出子たる子がいたとしても、むしろAさんのほうが、父親とは親密という特別な事情があります。
実際には非嫡出子の相続が争われる場合にもいろいろあると思います。逆に見たことも聞いたこともない、子どもと名乗る人物が突然登場するケースもあり得るでしょう。さて、あなたはどう考えますか?
■裁判所の違憲審査とはどういうことか
今回は、実際に非嫡出子の相続分を2分の1とすることの是非についての議論はとりあえずおいて。裁判所の違憲審査権の意味についてのお話です。
テレビでも新聞でも、まるで非嫡出子の相続分に差をつけることの是非そのものが問われ、それを裁判所が判断するような論調がけっこう多いと思いますが、実際はちょっと違います。「そんなことわかっている」とおっしゃる方もいるとは思いますが、老婆心?ながら、そのことをぜひ押さえてほしいと思うのです。
裁判所の違憲審査は、法律の内容や行政の行為が憲法に違反していないかを審査するもので、それ以上でもそれ以下でもありません。
法律について言えば、本来は立法機関である国会が決めればよいことです。つまり、もし非嫡出子の相続分に差をつけるのが不適切だとみんなが思うなら、何も裁判所で争ったりしなくても、国会で法律を改正してしまえばいいんです。裁判所は、民主的な基盤を持つ組織ではありませんから、民主的機関である国会が作った法律は尊重しなければなりません。もし、裁判所が勝手に法律を変えて適用したりしたら、それこそ大混乱が起きますよね。
とはいえ、国会の裁量もあくまで憲法に違反しない範囲に限定され、いくら国会で決めればよいと言っても、憲法に反することは許されません。それこそが「国家権力に縛りをかける」という、憲法の存在意義なのです。しかし、「許されない」などと言ってみても、「憲法の枠内かどうか」をチェックする機能と権限を発揮できる誰かがいなければ、実効性は期待できません。そこで、その役割を担うために、裁判所には特別に違憲審査の権限が与えられているわけです。
■違憲の判断合憲の判断
ですから、違憲審査では「非嫡出子の相続分を2分の1にすることが本当に適切か」ではなく「そういう立法が(あるいは法律を変えないことが)憲法の枠の中か」を審査することになります。そこで、違憲との判断なら枠の外ですから許容する余地は何もありませんが、逆に合憲という判断の中には一定のバッファ、つまり、不適切であってもぎりぎり枠の中で、憲法違反とは言えないという広大な領域が生じます。
何が言いたいのかといえば、もし「合憲」との判断が出たとしても、裁判所がそれを「適切」と判断した訳ではないということです。合憲といっても、「相当不適切だけど、ぎりぎり立法府の裁量の範囲内」というにすぎず、できれば国会で議論をして法律を改正したほうがよいことは山ほどあると考えなければなりません。加えて言えば、多くの人が不適切と思うことについて、裁判所が合憲と判断したからと言って、それだけで判断が非常識と言われてしまうと、判決に関与した判事も立つ瀬がありません。
もし、本当に多くの人が不適切だと思うのなら、裁判所が合憲と言おうが、民主主義は数の論理ですから、その意思を国会に反映させて、法律を変えればよいのです。
今回の問題に限らず、裁判所で合憲性が争われたときには、ぜひちょっとこのことを思い起こしていただけたらと思います。
■9番目の法令違憲の判決
戦後、最高裁が下した違憲判決は、これまで20件しかありません。さらに、法令について違憲との判断を示した最高裁判決は、そのうちのたったの8件です。最高裁は、国会の裁量を否定するについて非常に慎重で、よほどのことでなければ、「憲法の枠の外」という判断をしてきてはいません。今回、もし違憲判決が出れば、9件目の法令違憲の判断ということになりますから、大きなニュースになる訳です。
とはいえ、裁判所にはせっかく違憲審査権限が与えられ、チェック機能を果たすことが期待されているのですから、さすがに、もう少し積極的な姿勢をとってもよいのではないか、いろいろな意見はありそうですが、少なくとも私はそう思います。