非嫡出子相続分、違憲判決(決定)もう一つの重要課題

■「なんだか法令が無効になるらしいですよ」との一報

「河野さんは、違憲判決(決定)が出た場合でも、当事者間の当該事件についてのみ、その法令が無効として扱われるだけで、直ちに一般的に無効になるわけではない、そう言ってましたが、新聞記事を読むと、“法令は無効になる”と、違うことが書いてありました。ただ、そうなると大騒ぎになるので、最高裁は無効の効力を制限したらしいですよ、どうなんですか?」

ええ? それを聞いて私は仰天しました。万一そのとおりだとすれば、今回の最高裁の決定は「非嫡出子の相続分を定めた民法900条4号ただし書きが違憲」との判断を示したことに加え、それと同じくらい驚くべき、もう一つの判断を示したことになります。

■最高裁がもう一つの大きな判断をしたのか

すでに、別の記事でも説明したとおり、違憲判決の効果に「一般的な効力」を認めるべきだとの学説は存在するものの、これまで通説であり裁判所が採用してきたのは、いわゆる「個別的効力説」で、当該当事者間の当該事件においてのみ違憲判断の効力を認める(法令が直ちに一般的に無効になったりはしない)という考え方です

(その根拠は、最高裁判所の違憲審査権が「付随的審査権」であること、民事訴訟結果の拘束力の原則にありますが、詳しくは前の記事をお読みください)

彼の言うのが本当なら、裁判所は「個別的効力説」を棄て、「一般的効力説」を採用したということになるではありませんか。いよいよ、裁判所は権限の拡大に動いたのでしょうか。私は、むしろ一般的効力を認めるべきではなかろうかと考えていた1人ですので、驚きもひとしおでした。

 

■決定書に書いてあること

私は慌てて「決定書」を読みました。そうすると・・・。「なんだそういうことか」でした。

決定書には「先例としての事実上の拘束性について」との見出しがあり、本文中にも「本決定の先例としての事実上の拘束力により・・・」と明言されています。

やはり、法令が直ちに一般的に無効になったりするわけではありませんでした。当該事件の外では、なにもしなければ相変わらず有効なままで、そのことに変わりはないのです。(その点、決定書の記述は少々分かりにくいですね・・・)

しかし、最高裁の判断は「判例」というかたちで、下級審への事実上の拘束力を持ちますし、世間への影響力も事実上持ちます。そういう意味で、最高裁の判断は、事実上はその存在自体がとても重いのです

そして、法令が違憲であるとの今回の判断は、他の個別事情が変わったとしても違って来るような内容のものではありません。

したがって、もしも他の方々が(判断と基準になった時期以降の)相続割合を争い、その中でこの法令の合憲性を争えば、おそらく同じように違憲の判断が出て、それを前提とした判決が出ることになるでしょう。

そうなると、「だったらひとつ、提訴して争ってみようか」などと思うのが人情というものです。最高裁は、この事実上の拘束力から生じる混乱を懸念して、いろいろと拘束力に制限を付けているということなのです。

そこは、ぜひ誤解しないで、正確に把握していただきたいところです。

■平成13年7月当時以降が問題

なお、相続に関する規定は「相続発生時」つまり、被相続人の死亡時の法令によって規律されます。そこで、今回決定では「遅くとも平成13年7月当時(相続発生時)において、憲法14条1項に違反していた」との判断をしています。

だとするなら、そのとき以降に発生したすべての相続について、争う価値が出てきたことになりますから、混乱の危険も大きいわけです。

(決定には「最高裁の決定には遡及効がある」という言及がありますが、それはこの意味で、決してこの基準点以前までは遡ったりはできません)

■決定で言及されている制限

決定では「本決定の違憲判断は、Aの相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的になった法律関係に影響をおよぼすものではないと解するのが相当である」と述べられています。

そんな制限をかけることができるのでしょうか?

もともとが法的拘束力ではなく、事実上の拘束力の話ですから、決定の中で制限を加えることも可能なのだと思います(しかし、その制限もまた事実上の拘束力に過ぎないことにはなるでしょうね)。

 

■「確定的となった」とは

ただ、じつはこの制限、実際によく考えてみると、「確定的になった」と言われても、いったいどこまで制限対象なのかがはっきりしません。

たとえば、裁判所が関与して出された確定判決は、終局的な紛争解決ですから、原則としては蒸し返しが許されていないのに対し(再審の道はあります)、遺産分割協議など、当事者間で合意があるだけであれば、取消、無効、合意の不存在など、争う余地はいろいろあるわけで、それだけで確定的とまでは言えないように思えます。

また、民法900条第4号ただし書きは、まだ一般的には有効な状態であるため、相続が発生すると法定相続分の割合で当然分割されてしまう相続財産や債務などがどうなるのか、の問題もあります(債権債務については決定書にも多少触れられていますが、問題があります)。

今後、遺産分割協議が終わっている場合、終局判決、裁判所での調停がある場合・・など、個別のケースでどう考えたらよいのか、問題となりそうな気がします。

 

■立法解決をできるだけ早く

結局、こうなった以上一刻も早く、国会で審議して法改正し、適切な措置を立法によって提示するのが、いちばんよいように思われます。

もしかすると、そのことが分かっていたから、最高裁はこれまで国会が自ら法改正を行うのを待っていたのかもしれません。待ちきれなくなった裁判所の本音としては「さっさと改正しないから、我々がこんな面倒な処理をしなくしゃならない」でしょうか・・・

それにしても、今後、法令違憲の判断が出た場合には、同様の問題が発生する可能性もあります。今回、この問題をどう処理するかは、今後に向けても重要なことですね。

次回は、本来の非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とすることの合憲性という、メインテーマについてコメントします。

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