裁量労働制、導入しますか?(1)<結局どんな制度なのか>

■制御不能の自由な勤務状況

午前中に、某出版社の某編集部をたずねると、校了(印刷所への最終校正戻し)明けだったのか、だ~れもいなくてもぬけの殻・・・・と思って会議室のドアを開けると、ソファで寝ころがって鼾をかいている怪しいヤツが・・・。そうかと思えば「21時から打ち合わせするのでよろしく」とか、「朝4時集合!」なんてことも普通にあります。
私が、かつて仕事をしていた出版業界の勤務状況といえば、もうメチャクチャで制御不能だったことを思い出します。編集者や記者たちは、それぞれ自分の判断と責任で企画を進行しているので、いったい誰ががどんなスケジュールで仕事をしているのか把握のしようもありません

こんな状態の職場で、どうやって労働時間の管理や残業代の計算をしたらよいというのでしょうか?

そこで、登場するのが「裁量労働制」(労基法38条の3、38条の4)
この制度は、ようするに「業務を行った日については、え~いとばかりに、あらかじめ労働協定で定めておいた時間仕事をしたとみなしてしまおう」というものです。たとえば、労働協定で9時間と定めていた場合には、徹夜の校了明けで、3時ごろふらりと編集部にやってきた場合でも、早朝集合で取材に出かけた場合でも、ともかく1日9時間仕事をしたとして計算されることになります。
(「みなし労働時間」と言います)

これなら、社員が長時間仕事をせざるを得なくなった場合でも、残業代を抑制できるわけで、残業代に悩む会社側から見れば、救世主のようにも思えるかもしれません。

しかし、たいていの制度には一長一短があるわけで、裁量労働制も例外ではないんです。裁量労働制の中身を、ちょっと詳しく確認してみましょう。

■労働時間に関する規制を逃れる制度ではない

最初に、確認しておきたいことは「裁量労働制を採用したからといって、「労働法の定める労働時間規制の対象外になるわけではない」ということ。「裁量」といっても、なんでもありじゃありません。
たとえば、みなし労働時間がそもそも8時間を超えている場合や、土曜日出勤などがあって、週40時間の枠を超えた場合には、その時間について時間外割増賃金を払う必要がありますし(労基法37条1項)、法定休日の割増賃金(労基法37条1項)も適用されます。また、深夜に仕事をすれば深夜割増(労基法37条4項)も必要です。

また、どっちにしても会社としては、労働環境の整備の問題や、深夜労働時間の管理の必要もあることから、社員の労働時間を把握する義務からも逃れられるわけではありませんので、そこもご注意ください。

土日についてみなし労働時間が適用されると、休日に、ほんのちょっと働いただけで、長時間の残業や休日労働として計算されてしまうことになり、会社としては厳しい話になるという問題があります。

休日の勤務は原則禁止とするか、あるいは、みなし労働時間の規定を、月曜日から金曜日までとし、休日については適用しないとするような規定(現状では一応、そのような規定も可能と解釈されています)を検討する必要もあるでしょう。

■裁量労働制の対象と採用方法

裁量労働制には(1)専門業務型(労基法38条の3)(2)企画業務型(労基法38条の4)の2つの種類があります。それぞれ、対象となる社員や業務が異なりますが、採用のための手続きには大きな相違はありません(労使協定で定めるべき内容について、一部相違はあります)。ただし、(2)企画業務型については対象となる労働者の個別の「同意」が明文で求められている点は要注意です。

手続きとしては、法定されている事項(労基法38条の3、38条の4を参照)について、労使協定で定め、これを労働基準監督署長に届け出ることが必要。さらに、もちろん就業規則にも必要な定めを置かなければなりません。
なお、裁量労働制を採用するということは、労働時間管理を行いながらも、社員が自律的に自己管理をして、仕事の成果を評価して報酬を支払う意味合いになります。ですので、この機会に、裁量労働制を前提とした賃金規定に見直すこともお勧めします。

<(1)専門業務型の対象となる業務>
厚生労働省令で列挙された、以下の業種に限定されます。ちょっと長いのですが、列記しておきます。それぞれ詳しくは、厚生労働省のホームページで確認してください。

①新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
②情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。以下同)の分析又は設計の業務
③新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務
④衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
⑤放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
⑥広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
⑦事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
⑧建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
⑨ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
⑩有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
⑪金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
⑫学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
⑬公認会計士の業務
⑭弁護士の業務
⑮建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
⑯不動産鑑定士の業務
⑰弁理士の業務
⑱税理士の業務
⑲中小企業診断士の業務

*③と⑤における「放送番組とは以下のものを言う。
放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組。

<(2)企画業務型の対象業務>
企業戦略や経営の企画にかかわる、高度な業務に携わる労社員が対象で、「事業運営に関する企画、立案、調査、分析の業務」に対象となる業務も限定されています。もっとも、これではさすがに採用しづらく、最近では、もう少し対象を広げて使いやすい制度に変更しようという動きが出てきていることは、以前のコラムでお知らせしたとおりです。

裁量労働制導入の検討に当たっては、対象となる業務かどうかをまず確認しなければ次には進めません。

次回は、会社から見た裁量労働制、社員側から見た裁量労働制についてお話します。→

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