裁量労働制、導入しますか?(2)<会社から見た、社員から見た裁量労働制>

■導入するかどうかはこれを知ってから

裁量労働制がいったいぜんたいどんな制度なのかは、前回のお話である程度分かっていただけたと思います。でも、導入すると、会社側、社員側、それぞれにとってどんなメリット、デメリットがあるのでしょうか。

裁量労働制はどんな制度なのかは、まずここでチェック→

■会社から見た裁量労働制

(1)正当な賃金の支払いを逃れるための導入はNG

何時間働こうが、労働時間をあらかじめ「みなして」しまうわけですから、残業代の抑制効果や、人件費の予測可能性の確保という効果が期待できることは、確かにそのとおりです。

でも、その代わりに、仕事を成果で正当に評価して、それに応じて納得できる金額が支払われるような体制を作らなければ、社員の理解が得られないことは言うまでもないでしょう。裁量労働制を採用した結果、社員のやる気を失わせたのでは、会社にとって利するところはありません。

また、労働時間を何時間とみなすかについては、現実の仕事の量や状況を見た上で、合理的な時間を設定しなければなりません。そうでなければ、労使協定も成立しないでしょう。
あるいは、仮に強引に成立させたとしても、労基署の調査が入ったときに、みなし時間が実態とかけ離れていて、無理な運用をしていれば、厳しい行政指導を受けることになりかねません。

ところで・・・
「わざわざ、法定労働時間(8時間)を超える時間とみなす必要などあるんですか?」

と疑問を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、もし、仕事の内容や量によって、実際にも8時間以上かかると考えられる状況なら、最初から残業を見込んで、9時間以上とみなしておくことも一案です。(その場合には、もちろん残業代の支払いも必要ですし、36協定も必要です)

 (2)本当に「裁量」にまかせる覚悟が必要

裁量労働制は、何時に出勤して、何時に帰るのかなど、仕事の進め方や時間配分について、文字どおり社員の「裁量」に任せる制度です。

ということは・・・・、使用者から、仕事の進め方や出勤時刻等について、原則としてあれこれ指示してはならない、ということを意味します。これを忘れてはいけません!

もちろん、仕事内容についての指示や、業務を進める上で必要な打ち合わせへの出席等まで指示できないわけではありませんが、基本的に、社員を時間で縛ることはできないのです。

そうなると、自己管理のできない社員がいた場合のリスクは出てくるし、社員との信頼関係がなければ、使用者は疑心暗鬼にもなります。

だからこそ、裁量労働制を、単に残業代の抑制だけの意図で導入したりするのは、じつは非常に危険なのです。

社員が時間に縛られず、自ら時間を有効に使って、質の高い仕事とプライベートの両方を実現できるような職場環境を本気で作り上げる、そういう覚悟の元に導入してこそ裁量労働制の意味がある、そう考えてください。

 ■社員側から見た裁量労働制

「裁量労働制は、使用者が残業代支払いを逃れるための道具ではないか」そんな議論もあります。たしかに、意に反して長時間仕事をすることになってしまった場合でも、時間に比例した残業代がもらえないわけですから、ある意味でその危惧はあたっています。

でも、あなたはどれだけの時間働いたかという時間で評価され、賃金が決まってしまう働き方に満足していますか? 常に賃金が労働時間に比例することが、誰にとっても公平なことだと言えるでしょうか?

「働いた時間だけは必ず賃金を支払え」と要求する限りは、自ら時間を切り売りする労働者であることを認めているわけですから、逆に、どこまでいっても会社からの厳しい時間管理から開放される「自由」を手に入れることができません。

職種や自分のライフスタイル次第では、時間に縛られる働き方が窮屈ということもありますよね。

最近、自分のデスクすらなく、どこで仕事をしてもよいし、出退勤も自由という企業がいくつか登場して話題になっています。羨ましい働き方ですが、時間に応じた残業代だけは要求しておいて、時間の拘束からは逃れたいという虫のいい話は、存在しません。

賃金については、ようするに最終的にやった仕事がきちんと評価されて納得のできる金額が支払われれば、それでいいわけで、必ずしも時間に比例しなくてもよい、と考えることができるならば、時間の束縛から自由になれる。そういう意味では、むしろ裁量労働制は、社員の側にとって魅力的な制度となります。

ただし、設定されたみなし労働時間が適切であって、会社が裁量労働制を前提に、合理的な給与体系を作成してくれなければそうはいきません。また、使用者が社員にプレッシャーをかけて、現実的にはには社員が、仕事の進めかたを自由に決められない状況に陥ってしまうと、せっかくの制度も機能不全になってしまいます。

結局のところ、裁量労働制は、会社と社員、お互いの信頼関係の上に成り立つものなんですね。

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