フレックスタイム制はどう?(1)<裁量労働制と何がどう違う>

■当社はフレックスタイム制ですので・・・

前回は裁量労働制について説明しましたが・・・
「うちの会社はフレックスだから、朝9時に行かなくてもいいんだよ!」
とかとか・・・・
社員の裁量で、出退勤の時間を決めてよい制度といえば、一般的にはフレックスタイム制(労基法32条の3)のほうが、裁量労働制よりもよく知られているのではないかと思います。フレックスタイム制の場合には、裁量労働制と違って、職種によって導入の可否が変わることもありません。

 ■両者はどう違うのでしょうか?

裁量労働制と同様に、フレックスタイム制も、労働時間規制の対象外となる制度ではありません。法定時間外労働の割増賃金、休日や深夜の割増賃金の規定は、フレックスタイム制の場合でも、そのまま当てはまりますから、最初にその点は誤解のないように願います。

そして・・・裁量労働制は「みなし労働時間」という制度を使って、仕事の進め方をそっくり社員の裁量に任せる建前ですが、フレックスタイムの場合には、出退勤の時刻について一定の幅(「フレキシブルタイム」と言います)の自由があるだけで、労働時間について「みなし」はなく、あくまで実際の労働時間をもとにして残業を計算します。
たとえば・・、こういうことです。

フレックスタイム2

フレキシブルタイムの時間帯内であれば、社員が自由に出社時刻、退社時刻を決めることができる

「なんだ・・・それだけなの?」

いえいえ、フレックスタイム制にはもうひとつ、残業時間の計算の方法に通常とは異なる、大きな特徴があるんです。これを忘れちゃいけません。

それが「清算期間」(労基法32条の3第2号)という考え方。

通常は、1日8時間、週40時間の枠を超えたところが時間外労働時間として、割増賃金の支払い対象になるということはすでに述べたとおりですね。

残業時間の正しいカウントのしかたはここでチェック→

ところが、フレックスタイムを採用した場合には、この枠がなくなり、代わりに、あらかじめ定めた一定期間(これを「清算期間」と言います)の総労働時間を計算し、これまたあらかじめ定めておいた規定時間(労基法32条の3第3号)を超えた場合に初めて残業代の支払い対象になります。

ただし、この規定時間(=清算期間に勤務すべき総労働時間)は、清算期間を平均して週40時間を超えないように定めなければなりません。そして、清算期間を平均して週40時間を超えては働かせないのであれば、たとえ1日8時間を超える日や、週40時間を超える週が一時的にあったとしても、36協定すら不要ということになる理屈です。

 清算期間に勤務すべき総労働時間≧清算期間の日数÷7日×40時間(一部事業者は44時間)

つまり、一定の清算期間(1か月と定める例が多いと思います)で丸めて時間計算をすることになり・・・

ある1日に10時間働いたとしましょう。通常であれば、それだけで2時間の時間外労働が発生しますが、フレックスタイム制の場合、仮に翌日6時間しか働かなかったとすれば、2時間の残業は翌日には吸収されてしまいます。

また、ある1週間に土曜日にも出勤して、46時間働いたとしても(通常なら6時間の時間外労働が発生)、仮に翌週34時間しか働かなかったとしたら、やはり6時間の残業は吸収されてしまうことになります。(清算期間に勤務すべき総労働時間を週平均40時間として定めた場合の計算例です)

ときどき、フレックスタイム制にすれば、会社が労働時間の把握をする必要がないと勘違いする方がいらっしゃいますが、もちろんそんなこともありません。

むしろ通常よりも細かく労働時間管理を行う必要があることは、これまでの説明からも予想できるとおりです。

 ■フレックスタイム導入の手続き

1 労使協定(労基法32条の3各号、労基法規則12条の3各号)

以下の事項を労使協定で定めます。

①対象となる労働者の範囲
②清算期間と起算日
③清算期間中に勤務すべき総労働時間
④標準となる1日の労働時間(有給休暇をとった場合にカウントする1日の労働時間です)
⑤コアタイム(必ず勤務しなければならない時間帯、決めなくてもかまわない)
⑥フレキシブルタイム

 2 就業規則に規定をおく

始業および就業の時刻を社員の決定にゆだねる旨の規定をおきます。もちろん、コアタイムをやフレキシブルタイム以外の時間帯に勤務した場合のこと等々、フレキシブルタイム導入にあたって、そのほかに必要な規定も定めなければなりません。

次回は、会社から見たフレックスタイム制、社員から見たフレックスタイム制についてお話します→

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村