「あなたのパソコンは危険な状態です、今すぐここをクリック!」など不安をあおる表示の違法性は?

パソコンを起動すると、勝手にブラウザが開き……

たとえば「あなたのパソコンは危険な状態です、今すぐここをクリック!」などの派手な文字がピカピカ点滅したことありませんか?

何かをダウンロードしたときなどに一緒に、何者かがPCに忍び込んだに違いありません。
除去する方法などはネット上にもいろいろと掲載されていますが、「こういう表示をさせる行為って、それ自体が法律上問題にならないのですか?」との質問がありました。

最近では、インターネットバンキングへアクセスする為の情報を不正に得ようとするフィッシング詐欺や、ワンクリック詐欺なども横行していて大きな問題となっていますが、そこまででなくても、不安をあおって、不正に何らかの契約をさせようとする怪しい表示は、しょっちゅう発生する問題ですよね。

1 不正アクセスの問題

まず、他人のコンピューター内に何らかの形でアクセスしているということがあれば、不正アクセス禁止法違反として、刑事処罰対象となる可能性がありそうです。

不正アクセス禁止法は、他人のPCやサーバーに入り込むこと自体を禁止し、情報の機密性を保護するための法律。つまりアクセス制御機能のあるPCの制御を破って侵入する行為を罰するものです。そこで、・・・

①侵入をうけたPC等が何らかの形でアクセス制御機能を有していること、②識別符号(IDやパスワードなど)を勝手に入力するか、その他の方法で利用制限を免れる指令をPC等に与えるなどして、
③そのPCを作動させて、本来制限されていて使えないはずの特定の利用を可能な状況にする

ということが行われた場合には、処罰の対象になります(不正アクセス禁止法第2条第4項)。

問題となっている表示が、どのようなメカニズムで出てくるのか、より具体的な事情ががわからないと、①②③を満たしているのかについて、何とも言えませんが、もし制限の脆弱性に付け込んで、アクセス制限のかかったサーバーやPCなどに侵入し、怪しいプログラムを残置させるなどして、フィッシングサイト等を表示させている状況が存在するとすれば、該当する可能性が出てきます。

ただしポイントは、アクセス制限の有無です。無防備なPCやサーバーにアクセスしたとしても、本条の不正アクセスということはできません。
また、制限があった場合でも、当然ながらユーザー側でアクセス許可を与えれば、不正アクセスとは言えないことになりますね。

 

2 電子メール広告の原則禁止(特定商取引法第12条の3)

特定商取引法では、承諾を得ない限り電子メール広告は原則禁止とされています(同法第12条の3)。しかし、パソコンの画面に勝手に広告を表示させる行為はメールによるわけではありませんから、この法律の適用も困難なのが現実でしょうね。しかし、迷惑行為としては同じ類型なので、対象としてほしいものです。

 

3 表示内容に関する問題

(1)詐欺の問題

パソコンの画面上の表示に限る訳ではありませんが、契約に誘導するために不当な表示が行われている場合には、詐欺等の問題が出てきます。

まず、表示内容が虚偽であって、これにより買い手が重要な点で錯誤に陥り、錯誤に基づいて購入(財産的処分)をしてしまったという場合には、詐欺(民法96条3項)に該当し、買い手は契約を取り消すことができます。あるいは、態様によっては不法行為(民法709条)として、損害賠償請求をすることも可能でしょう。

さらに、刑法上の詐欺の認定ができる場合には、刑事処罰の対象にもなり(刑法246条)、未遂も処罰対象になります(刑法250条)。

 

(2)そのほかの問題

他に考えうることは、ア、景表法や不正競争に関する問題、イ、消費者契約法の問題などでしょう。しかし、もしも表示内容がただ単に、不安をあおるというだけのものであった場合には、アやイでは、なかなか捕捉できません。

ア、景表法等に関する問題

俗にいう「景表法」とは、「不当景品及び不当表示防止法」が正式名称で、行き過ぎた景品を提供したり、誇大な表示や虚偽の表示で、消費者の判断を誤らせる行為を禁止する法律です。

この法律で言うところの誇大・虚偽表示とは、①「優良誤認表示」(実際よりも、あるいは競合商品より優良であると誤認を招くような表示、4条1項1号)、②「有利誤認表示」(実際よりも、あるいは競合商品より有利であると誤認を招くような表示、4条1項2号)、③「その他誤認される恐れのある表示」(その他の紛らわしい表示や、誤認を生じさせる表示、4条1項3号)です。

なお③については、内閣総理大臣が指定するものとされており(実際には消費者庁等が告示によって指定)、現在は、おとり広告や原産地国の表示等々の6類型が指定されています。

もしも、景表法違反の表示があるということになれば、措置命令等の行政処分の対象となりますし、さらに進んで、表示内容が不正競争防止法違反と認められる場合には、刑事処罰対象になったり、損害賠償請求などの民事訴訟の請求原因になることもありえます。

ただし、単に「不安をあおる表示」のように、購買動機となる背景事情を誤らせる表示のみであれば、景表法の不当表示の類型には当てはまりません。

 

イ、消費者契約法の問題

表示内容が虚偽である場合に、詐欺が問題となることはすでに述べましたが、そうだとすれば、消費者契約法で規制する「不実告知」などの類型(消費者契約法4条1項2項))にあてはまらないでしょうか。

民法よりも、広い範囲で取消しを認めて消費者を保護しようという目的で定められたのが、消費者契約法の規定ですから、認められそうな気がしますが、じつは難しいのが現実。

消費者契約法では

不実告知を行う対象は「重要事項」でなければならず、重要事項は以下のように定められています。(消費者契約法4条4項)

①物品、権利、役務その他当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容。

②物品、権利、役務その他当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件。

のいずれかであって、消費者が契約をするかどうかについての判断に通常影響を及ぼすべきもの。

つまり、契約の目的対象そのものについての内容や、取引に関することでなければないわけです。ということは、単に現在使用中のパソコンについての不安をあおっただけでは、該当しないことになりますね。

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